どれだけ語彙を広げれば洋書が楽に読めるのか

学習法
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英語を使いこなすには、やはり実際に文を組み立てたり読解するスキルが重要です。それを強化するには、文法の知識を身につけたうえで実際に何度も読み書き (聴く話す) を繰り返す実践が欠かせないというのは、多くの英語学習者が認めるところではないかと思います。文を組み立てる練習の例としては、1センテンスの作文をドリル形式で何度も行なう 瞬間英作文 が挙げられます。文の読解には、児童書など簡単な文を大量に読む 多読 が役立つと言われます。

筆者の感覚としても、多読は文章を瞬時に読み解く力を確かに向上させます。文の読解力はリスニングの重要な土台でもあります。ネイティブが話す以上の速さで読解できなければ、せっかく単語を聞き取れても意味を理解できません。ネイティブと口頭でコミュニケーションできるようになるには、少なくともネイティブの発話と同程度の速さで英文を読める必要があります。

多読では英文を読むことに慣れ親しむために、原則として辞書は引かず分からない箇所はスルーして読み進めます。しかしながら、1文の中にいくつも知らない単語があったのでは文意をとらえることすらままならないでしょう。とはいえあまりに簡単な本ばかり読んでいても面白くないものです。知らない単語を減らすには、知っている単語を増やすしかありません。では、読書を楽しめるようになるにはいったいどれくらいの語彙が必要なのでしょうか。

95%の単語が理解できれば文意をつかめる?

ある研究によると、文章中の95%以上の単語を知っていればその文章を理解できるということです (Laufer 1989)。また、知っている単語が90-94%のグループは、89%以下のグループとの理解度の違いは顕著ではなかったそうです。

さらに別の研究では、文章を理解し、かつ楽しむためには文章中の98%以上の単語を知っている必要があると結論しています (Hu and Nation 2000)。

これらを踏まえると、多読のように辞書を使わずに英文を読み進めるためには、その本の少なくとも95-98%の単語を知っている必要があるようです。つまり、仮に100語の段落があるとして、そこに知らない単語が6つ以上あると全体の理解は難しいということです。また、3つ以上あればそれだけ文意をつかむのに苦労すると考えられます。

実際の洋書に使われている単語とSVL12000

では、それだけの単語を把握するためには、いったいどれほどの単語をカバーできていれば良いのでしょうか。いくつかの小説を対象に、単語レベルの分布を SVL12000 の各レベルに対応させて調べてみましょう。作品には、多読の文脈でよく紹介される作品のうち、筆者の判断で大人も楽しめるレベルと思われる3作を選択しました。また、調査には Aoyama Gakuin University Word Level Checker を利用させていただきました。対象としているのは各作品のほんの一部であり、偏りもあると考えられますので、参考程度にしてください。

The Martian

The Martian の Chapter 1 と Chapter 23 のうち、分類できない単語を除いた約6000語の分布です。 SVL の最初の 7000語までで95%、9000語までで98% をカバーしています。

Level%
100078.54
20007.77
30003.92
40003.08
50001.32
60001.18
70001.00
80001.53
90000.44
100000.32
110000.65
120000.25

Holes

Holes の冒頭1-5のうち、分類できない単語を除いた約3400語の分布です。 5000語までで95%、8000語までで98% をカバーしています。

Level%
100084.37
20007.06
30003.15
40001.45
50000.82
60000.85
70000.57
80000.43
90000.18
100000.27
110000.39
120000.43

The Giver

The Giver の1-3までのうち、分類できない単語を除いた約6000語の分布です。 5000語までで95%、7000語までで98% をカバーしています。

Level%
100083.04
20006.21
30004.97
40001.72
50001.21
60000.88
70000.48
80000.70
90000.31
100000.10
110000.27
120000.12

結局どれくらいの語彙が必要なのか

冒頭の研究結果を踏まえると、これらの作品を楽に読み進めるには少なくとも SVL Level 5 (5000語) 程度は必須で、できれば Level 9 (9000語) まで知っておくことが望ましいということになります。とはいっても、学生時代を含めてこれまでの英語学習を考慮すると、特別にボキャビルをしていなくても基本的な単語は (例えば最初の3000語程度) 自然に身に付けているかもしれません。その場合は実際に覚えなければならない語はこれより少なくなります。

自分のだいたいの語彙を知るには、オンラインで提供されている語彙力テストを利用すると良いでしょう。数分でだいたいの語彙力を測定してくれます。

もちろん本の難易度によって必要な語彙は変わりますので、9000語で十分というわけではなく、あくまでひとつの目安となります。洋書といっても子供向けの絵本から難解な専門書まで様々ですよね。ちなみに英語学習向けの教材、例えば Grammar in UsePractical English Usage といった英語のテキストは大人向けではあるものの、使われる単語はある程度限られているため、一般的な大人向けの小説よりも楽に読めたりします。

ボキャビルで一気に語彙を広げる

自然に単語を習得できれば理想的です。しかし、現状と目標との間にあまりに開きがある場合は、ボキャビルで知っている単語を一気に増やすのが効率的です。今日、フラッシュカードとして使えるアプリには様々なものがあります。なかでも 間隔反復 を用いて効率よく学習を行なえるものを選ぶとよいでしょう。

例えば Anki は間隔反復を用いたフラッシュカードアプリのひとつで、SM2 と呼ばれるアルゴリズムをベースに実装されています。PC (macOS、Linux、Windows)、iOS、Android、Web など様々なプラットフォームで使えるうえ、学習状況を各プラットフォーム間で同期することも可能です。また、フラッシュカードのリストをCSVで一気に取り込むこともできます。ちなみに、名前の似ている AnkiApp というアプリもありますが、これは全くの別物なので注意してください。

筆者が実際にボキャビルをやってみた感想としては、1000語覚える毎に少しずつ見える世界が変わっていきます。知っている単語が増える度に、より速く、より深く文意をつかめるようになりました。また、次第に児童書だけでなく大人向けの本にも手を出せるようになっていき、読める本の幅が広がります。私見ではありますが、ボキャビルで一気に語彙を広げる場合は、浅く広く覚えると良いのではないかと考えています。例えば retort という単語があったとして、名詞と動詞どちらの意味を覚えていれば「知っている」とみなせばよいでしょうか。発音やアクセントも覚えないとだめ? どう変化する? 類語との違いは? 語源は? といった感じで、深く掘りはじめるとキリがありません。そのため、まずはとっかかりとなるような短い言葉で覚えるだけでもよしとして、より深い理解はその後、実際に読書をするときなどに培っていけばいいのではないかと考えています。その単語がどういった文脈で使われるかという知識は、辞書を眺めているだけでは身につかないからです。

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語源を通してより深く知る

単語のルーツを知ることで、その語についてより深く知ることができます。類語との違いが明確になることで、同じ文章から得られる情報量も変化します。それだけでなく、語源を知ることで、その語源の他の派生語に出会ったときに辞書を引かなくてもなんとなく意味を想像できるようになります。ある程度語彙を広げた段階で語源について知っておくと、その後のボキャビルの助けにもなるでしょう。

参考

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